story
短編集
Liebeslied
<付き合い初めたばかりのステペルちゃん>
ほのかに甘い香りがした。
鼻をくすぐるような、そんな優しい、甘い香り。
私はその甘いに誘われるかのように、夢の世界から抜け出す。
ふわふわなベット、ダブルサイズもある大きなベット。
まだ覚醒してないのか、頭がぼんやりとする。
おもむろに目をこする。
すると、ぼやけていた視界がくっきりと鮮明になっていく。
その視界にあったのは、
「おはよう、ペルノちゃん」
私を、この場所へ連れて行ってくれた人。
私の歌を、褒めてくれた人。
そしてこの人は、
「おはようごじゃいます…」
「はは、寝ぼけてるペルノちゃんも可愛い」
超絶美形のイケメンであり、私の彼氏だったりする。
ぼんやりとしてうまく思考が働かなかった私は、彼が次に取る行動を予想することができなかった。
そっと私の頬に手をそえる、ステールンさん
その表情は、とても雅なもので。
色気があるというか。
そしてそんな表情を浮かべたステールンさんは、私の方に近付いてきていて。
あ、これは。
「んぁ!?」
「いてっ」
思わず変な声を出してしまったけどそれは仕方のないことで。
だって、どう考えてもあれは。
「す、ステールンさん今キスしようと…!!」
してましたよね
この声は彼の手によって封じられてしまった。
ふと意識を目の前に移すと、視界に存在する彼はなんとも言いがたい、微妙な顔をして私の口を指で抑えていた。
せっかくの美形が残念ですよと言いたいところだが、微妙な顔をしていても美しいだなんてやっぱりイケメンは罪。
「ステールンさんじゃなくて、ステールンって呼んでっていったよね」
「ふぁ、ふぁい」
そんな顔をして言われてしまうとなにも言えなくなくなるじゃないですか。
彼は寂しそうな表情を浮かべて、でもそれは一瞬で。
またいつものからかっているような表情を浮かべた。
「もし次、ステールンさんっていったら本当にキスしちゃうよ?」
「そ、それは…ご遠慮させていただきます…」
キスと言われて、思わず顔を真っ赤にしてしまった。
あぁ、今、私はどんな顔をしているのだろうか!
「…もしかして体質のことバレてる感じか」
そんな彼の呟きに、私は気づかなかった。
<キスしたら声を失ってしまうことに恐怖を抱くペルノちゃん>
ステールンとキスすると声を失ってしまうらしい。
これは、彼自身から聞いた事実で。
キスをした相手の声を奪う事ができるだなんて、最初は嘘かと思った。
でも、このことを話す彼の表情は真剣で。
今までキスしようとしてきても一度もキスをしたことがないのは、彼は私の声を奪いたくなかったからなのだろうか。
ステールンと、キスしてみたい。
けど、キスをすれば声を失ってしまう。
それはつまり、私の夢が二度と叶わなくなること。
大舞台で歌を歌いたい。
私の歌を多くの人に聞いてもらいたい。
たった一度でもいい。
それが、私の夢だった。
声を失うということは、夢を失うということ。
私の声が消える。
ステールンが好きだといってくれた声が、私から消える。
…もしそうなってしまった場合、彼はまだ私のことを好きでいてくれるのだろうか。
声を失ってしまった、私のことを。
<ペルノちゃんに嫌われた気がして落ち込むステールン君と第一貴族様※会話文>
「はぁ…」
「おや?なにか悩み事かな、ステールン」
「…レディルスさんですか、どうも」
「なにか悩んでいるようなら僕が相談に乗ってあげようか?」
「…ペルノに嫌われたかもしれない」
「今更?」
「は」
「だってステールン君ペルノさんに冗談でキスするフリをしたり将来のためにペルノさんの歌声勝手に録音してるしちょっと機嫌が悪くなると当たってるみたいだし…」
「あの待ってください」
「ん?」
「なんでそれ知ってるんですか」
「第一貴族だから?」
「それ絶対関係ないだろ」
「まぁペルノさんに嫌われるようなこと結構してるし全力で謝ってきたらいいと思うよ!」
「全力で謝る」
「そう、全力で。当たって砕けて弾け飛べってやつだよ」
「弾け飛ぶ」
<酔ったペルノちゃんにあれこれ質問するステールン君※会話文>
「ふにゃぁ〜」
「はは、ペルノ顔真っ赤だなぁ」
「しゅてーるんのほうがまっかだよぉ…へへ」
「…!」
「ん?どぉしたのしゅてーるん」
「可愛いすぎか…」
「んにゃぁ…そんなこといったらぁしゅてーるんのほうがかっこいいよぉ」
「………ちなみにどのあたりが?」
「かお〜!」
「嬉しいけどなんかすごい微妙な気持ちになるなクソ…!」
「それとねぇ、こえとかしぐさとかぜーんぶ!」
「そうかそうか」
「はわ…くしゅぐったいよぉしゅてーるん…」
「じゃあもう一つ質問。俺の事好き?」
「だいすき!」
「………っ」
「だいすきだよ、ステールン!」
「……俺も、大好きだよ。ペルノ」